見ているだけで思わずほほ笑んでしまいそうな、やさしく柔らかなテキスタイルを生み出す『KAYO AOYAMA』。
デザイナーの青山佳世さんに、留学したスウェーデンのこと、テキスタイルデザインのこと、そしてGIFTGRAPHYでお取り扱いしているスタイが生まれたきっかけなどをうかがいました。
■素朴な国・スウェーデンとの出合い
大学でスウェーデン語を専攻したのち、現地へ留学した青山さん。
「高校生のころ外国にすごく興味があって、留学したいという理由だけで外国語大学に行きました。ヨーロッパの中でマイナーな言語として選択肢にあったのがデンマークとスウェーデンで、どちらがいいか悩んで。少し面積が大きくて、当時IKEAが日本に再びやってくるという時期だったので、IKEAも好きだし、というような理由でスウェーデンにしました。なのでスウェーデンのことは全然知らなかったんです」
そんな入り口を経て、スウェーデンについて学びを深めていった青山さん。大学3年生のころ念願だった留学を果たし、よりその魅力に惹かれていったそうです。
「すごくいい国でした。自然が大好きで、お休みの日も森に入ってきのことかベリーを摘んだりとか。労働時間も短いわけではないのですが、結構朝早くからみなさん働き始めて、夕方の4時半くらいには仕事を終えて、家族との時間を大切にしていたり。そういう素朴なところにとても惹かれました」
■始まりは「絵を描きたい」という気持ち
スウェーデンをはじめとした北欧はデザインが盛んな地域。
青山さんも一年間の留学中にデザインを勉強したいという思いが強くなり、卒業後はスウェーデンの大学でデザインを学ぶことに決めます。そこで待っていたのが、現在の仕事となるテキスタイルデザインとの出合いでした。
「実は最初はテキスタイルを勉強したいとは思っていなくって。北欧はテキスタイルがすごく生活に根付いているというのは、後から知ったんです。
現地の大学に入ったころは、絵を描くことを仕事にしたいと思いながら、どうやって仕事にしたらいいかわからなかった。そんなときに模様のつくり方を教えてもらい、模様にするだけで描いていた絵がデザインになる、印刷すればプロダクトになるということに衝撃を受けたんです。そこからは絵を描く代わりに模様を描くようになって、今につながった感じです。今もそうですが、プロダクトをつくるためにというよりは、絵を描くために模様をつくっていました」
▲手前の柄〈puzzle〉を描くために、実際に紙でパズルを自作されたそう
■北欧で感じた、柄のもたらす豊かさ
スウェーデンでの生活が、現在の作風にも影響をもたらしていると話す青山さん。そこには長く厳しい冬を楽しく過ごす、北欧ならではの工夫が基盤にありました。
「明るい柄のテキスタイルを家の中に取り込むことで、暗い冬の中で少しでもその生き生きとしたさまを感じられるように、というのが人の暮らしの中にあるのをすごく感じて。それって生地だけではなく、例えばお部屋にお花があるだけで、うれしい気持ちになると思うんです。自分が描くものも、ものになったときにそういう風に感じていただけたらいいなと思います」
▲青山さんの描く柄でつくられたカレンダー、ハンカチ、スタイ
描かれるモチーフに植物が多いことも、自然に近いスウェーデンでの暮らしが関係しているそう。
「植物を描く理由はいくつかあると思っていて。ひとつは描いていて自分自身が癒されるところ。あとは、見たときに心が落ち着くような感覚やバランスになるように描いていくんです。そのときに、ちょっと空いているなっていうところに葉っぱを一枚描き足しても、それが不正解にならない植物ならではのおおらかさみたいなものがあって。植物の有機的な形や特徴に助けられたり、そういうところが面白いなと思います」
「柄のアイデアは日常で目にするもの、植物だと散歩中に出合ったものから得ることが多いです。名前を調べながら描いていったり、図鑑を見ることもありますし、美術の展示で直接絵画などをみて『こういう描き方をしてみたいな』と思ったり。画材や描き方を統一しているというよりは、新しい描き方をしてみたいと思うことが多いです」
■描いた「その先」が広がる、テキスタイルデザインの魅力
カラフルなパズルに幻想的なクジャク、そしてころんとした実が愛らしいローズヒップ…。
GIFTGRAPHYでご紹介しているベビースタイは、青山さんの描くテキスタイルに、作家さんがひとつひとつ手作業でレースを縫いつけてつくっています。商品が生まれたきっかけは、ご自身の経験から。
「娘を出産したタイミングで、友人がその作家さんのスタイをプレゼントしてくれたんです。その後、自分の描いた生地で娘のスタイをつくっていただいた写真を投稿したときに、欲しいと言ってくださる方がいらっしゃったので、いつか商品にしたいとずっと思っていました。そんなときにお声がけいただいたので、商品化することにしました。
スタイのいいところは、お洋服がシンプルなものでも、つけるだけでよそ行きになる手軽さや、汚れてもその部分を回して使える実用面だと思います。作家さんがレースにすごくこだわっていて、手仕事のあたたかみがあるのもいいかなと」
▲レースは作家さんがこだわって探されたもの
平面で展開されるイラストとは違い、布になることでさまざまな表情を見せてくれるテキスタイルデザイン。描いた絵の「その先」が広がっているのが魅力だと青山さんは語ります。
「生地になって出てきたときの新鮮な驚きはすごく楽しいですし、生地を買ってくださった方がお洋服にしてくださっているのを見ると、すごくうれしい気持ちになりますね。
洋服にしたときに、柄が派手すぎると着られない。その人をより魅力的に見せてくれるような柄が描けたら一番いいなと思っていて。それがどんな柄なのかを今はずっと模索している感じです」
今後やってみたいことは、壁紙をつくることだそう。
「毎日その空間の中で過ごすというところで、心地よい柄をいつかつくれたらいいなと思っています。壁紙は奥が深く、洋服とは少し違う難しさと面白さがあるような気がしています」
「わたしが一番好きなのは塗っているときなんです。ただひたすら塗りつぶしている時がすごく楽しくて。意図せずムラができるところに面白さと、不完全なところにあたたかみがあるのかなと思います。柄が完成したときは達成感もありますが、長編ドラマを見終わってしまったような寂しさも感じます」
▲スタイの柄のひとつ、〈fleur〉。後から配色を変えやすいよう、原画は黒で描くことが多いそう▲〈forget me not〉の原画
いろいろな手法を楽しみながら柄を描いているという青山さん。見ていて心が和むのは、絵を描くことを志した学生のころから変わらない、そんな純粋な気持ちが伝わってくるからなのかもしれません。
〈KAYO AOYAMA〉
スウェーデンにてテキスタイルデザインを学んだ青山佳世さんが2014年にスタートした、オリジナルデザインの生地ブランド。
私たちの暮らしにひそむ、ものやかたちの美しさ、愛おしさを水彩絵の具や鉛筆など様々な画材で表現しています。
KAYO AOYAMA:http://kayoaoyama.com/