つくり手ノート

身近にある植物に、興味を持つきっかけをつくれたら/NEROLIDOL

みずみずしい花束や、季節を感じるアロマの調香、エディブルフラワー(食用花)料理などの植物教室、ドライフラワーのアクセサリー…さまざまなかたちで、《植物のある暮らしと装いを》伝えるNEROLIDOL(ネロリドール)。
下北沢にあるのどかな空気の流れるアトリエで、主宰する猪飼牧子さんにこれまでの道のりと植物への想いを伺いました。

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■遠回りをしながら考えた、「本当にやりたいこと」

アトリエや外部のイベントで、植物に関する教室や販売の活動をされている猪飼さん。
その根本にあるのは、「植物に興味のない方でも興味を持ったり、暮らしの中に取り入れてみようと思うきっかけを見つけてほしい」という思い。
そのため、初心者の方でも挑戦しやすいものから難易度の高いものまで、幅広い活動をされているのだそうです。

今でこそ植物を仕事にしている猪飼さんですが、現在の形に到るまでには長い葛藤と、遠回りしたからこそ見える世界がありました。

「大学を卒業して商社に入ったのですが、疲れている人がすごく多かったんです。そこで、なにか自分でやれることがないかと考えました。

当時アロマセラピーはそこまで浸透していませんでしたが、そういった方たちを癒せるかもしれないという思いと、素敵で響きもいいという理由で、お金を貯めて会社を辞め、学校へ通って資格を取りました」

しかし、そこから順風満帆に物事が進んでいったわけではないようです。

「アロマセラピストって、疲れている方やお話を聞いてほしい方に常に触れる職業なので、自分の心に抱えるものが多くなってしまいました。

もともとアロマセラピーに本当に興味があったかと言われたら、多分そこまでの覚悟はなかったので、だんだん根本のアロマセラピーから興味が薄れていってしまったんです。

これは本当に自分がやりたいことなのか、悩みながら過ごしていたあるとき、働いていたサロンが経営を理由に閉店することに。ほかの職場を探すかも迷いましたが、『この気持ちのまま続けるのは無理だろう』と思い、並行して働いていた靴屋で社員として働くことになりました」


■花の師匠に直談判して得た学びと関係

10年ほど靴屋さんで働く中で、アロマの仕事から離れたことがやはり心残りだったという猪飼さん。

アロマというものにきちんと向き合わずに目を背けた自分がずっと嫌だったのですが、植物が好きというのは変わりませんでした。

靴屋で働くなかで植物を取り入れようと思ったときに、花を常に買っている自分がいて。花が好きなので捨てられず、それをドライフラワーにして自分のためにアクセサリーをつくり始めました」

そんな生活を続けるうちに、「植物の仕事に戻りたい」という気持ちが強くなっていったそうです。

以前と同じようにアロマだけをやっても挫折してしまうと考えた猪飼さんは、生花もきちんと勉強しようといろいろな単発レッスンに参加することに。

そこで出会ったフローリストの方に直談判して仕事を手伝わせてもらいながら、多くのことを学んでいきます。

「当時わたしは36、7歳で普通に花屋さんに入るには遅いし、足りないのは経験値だと感じていたので、一人の人につけば一連で流れを見られると思ったんです。

トータルで4、5年くらいアシスタントをしながら、個人でもイベントに出たり、販売をしたりといった活動を始めました。そのとき経験させていただいたさまざまなことが、今の大きな糧になっています」

 

■生花もアロマも、つながっている

活動当初は、カフェやイベントに出展してアロマと生花とアクセサリーを扱っていたという猪飼さん。
ですが、伝えたい想いを届けるのはなかなか難しかったようです。

「アロマセラピーって目に見えるものではないし、興味のない方にとっては『なんだかいい匂い』くらいのものだと思うんです。その状態で、アロマとアクセサリーとお花があれば暮らしに植物を取り入れる提案になるというのは、わたしのエゴを押し付けている感じだったんですよね。


▲店内には、生花だけでなくドライフラワーやアロマオイル(精油販売は事前オーダーの二十四節気精油のみ)なども並んでいます

興味がない方でもやってみようと思ったり、全ての方に対して身近なものってなんだろうと考えたときに、人間は食べたり飲んだりすることは絶対にやめないので、もう少し飲食につなげた植物の提案をできないかとハーブを勉強し始めました。

ハーブだったら見た目にも植物だというのがわかりますし、ハーブティーを淹れれば香りがするので、その香り成分が精油成分だというのを伝えれば、それがアロマなんだということにつながったりとか。

今まで私がアロマと生花で視覚的なつながりを持たせられなかったところの、潤滑油になってくれるかなと思ったんです」

▲インタビューに伺った日も、ハーブティーを淹れてくださいました


■二十四節気を通じて知る、見過ごしがちな季節の変化

GIFTGRAPHYでは二十四節気をイメージしてブレンドしたアロマオイルと、アロマワックスサシェをセットにした「季節のアロマセット」をお取り扱いしています。

立春や秋分などを聞いたことはあっても、普段から二十四節気を意識している人は少ないのではないでしょうか。実は猪飼さんも、そのひとりだったそうです。

「6年ほど前に今のアトリエの場所に戻ってきたのですが、ここには緑道があって、散歩していて『これはなんていう植物だろう。この実は、花のときどんな姿だったんだろう』と思うことが多くなりました。

そんなときに二十四節気と七十二候を知って、今まで動植物や気候の動きの変化なんてあまり気にしてなかったなと思ったんです。人間も地球上で動物や植物と同じように暮らして色々なものの助けを得ているのに、季節をあまり感じていない。

花屋をやっている以上、季節の花でないものを扱うこともありますが、お客さまに植物の良さや魅力を伝えるときに、植物が本来咲く時期のことをもっと知りたい、伝えたいという気持ちもあって。


昔の方々が見ていたものを意識していたら、植物と季節を見る目もすごく変わりました。

『暦上では春になったけれど、まだまだ寒い。でも、日がこんなに延びてきたことに春の兆しを感じる』など、目の前のことばかりにとらわれず、プラスの面を見られるようになったことがすごくうれしいです」

 
■誰かの生活の、幸せの成分の一つになれたら

ちなみにネロリドールという名前は、植物の香りの成分からとったもの。

「植物の香りって、色々なものが複合的に合わさって一つになっているんです。

人の生活の中の幸せも、おいしいものを食べたとか、昨日こんなことをしたとか、今日子供がこうだったとか、そういうものが一個一個重なってその人の幸せな暮らしになっていると思うんです。

ネロリドールも誰かの生活の幸せの成分の一つになれたらいいなと思い、成分を名前にしました」

「この店もイベントに出るときも、私でなく植物が主役ですし、来てくださるお客さまがいらっしゃるならお客さまが主役ですし。私は常にそういう立ち位置がいいなと思っています」

■アロマとハーブを日常に

「今後は、暮らしの中で困ったことに活用できるような、アロマとハーブの基礎的な知識が学べるコースをやりたいと思っています。

アロマやハーブをやっている人って、美しい生活をしていて身体の中もきれいで、いいものを食べていそうなイメージがありますが、必ずしもそうである必要性って全くなくて。

『少しでも興味があるならやってみよう』と思えるくらい、気軽に取り入れられるようになったらうれしいなと思っています」

身近にあるのに、意外と気がつくことのできない植物の姿。見過ごしがちな季節の変化。
ふとその存在に目を向けたり、愛おしさを感じることができたなら、ありふれた毎日にも豊かさや幸せを見いだすことができるのだと思います。

 

写真提供:1、4、9、10枚目(NEROLIDOL)


〈NEROLIDOL〉
東京・下北沢にアトリエ兼教室を構える。
主宰の猪飼牧子さんの肩書は、フローリストだけでなく、アロマセラピスト、ハーバリスト、植物を用いたアクセサリー制作、ワークショップ講師など多岐にわたります。
さまざまな活動を通じ、植物が姿を変えながらも、私たちの生活に寄り添ってくれている《植物のある暮らしと装いを》伝えています。

NEROLIDOL:http://nerolidol-flower.com/ 

 


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