店舗を持たず、東京・駒沢のアトリエを拠点に活動するオーダーメイドの花屋Malmö(マルメ)。繊細で優しいアレンジは、心がほっと安らぐような、明るくなるような、そんな魅力を放っています。
主宰する菊池裕子さんに、年齢を重ねてもずっと続けたいと語る仕事のこと、そして植物へのあふれる愛をたっぷりお話しいただきました。
■誰かの喜びに関われることが一番幸せ
今年でマルメを始めて12年目になるという菊池さん。
店舗のない状態で立ち上げた後、ギャラリーを間借りする形でお店をオープン。そこから紆余曲折を経て、現在のアトリエ中心の活動になりました。
現在は駒沢にアトリエを構える菊池さんですが、出身は岩手県。東京に来た理由も、花屋になるためではなかったそうです。
「東京に出てくるまではOLをしていて、上京後はインテリアショップに勤めました。最初はアルバイトだったので、掛け持ちで働けるアルバイトを探していて。たまたま住んでいる家の斜め前くらいにすごくかわいいお花屋さんがあって、週1くらいで働かせてもらえることになったんです。
そこからお花との関わりができ、お花って楽しいかもと思うようになったんですが、本業にするつもりはありませんでした。しばらくしてインテリアショップで社員登用の機会があり、副業が禁止だったので花屋は辞めました」
その後もフラワーレッスンに通うなど、お花と触れ合う機会を持ちながらインテリアの仕事を続けること数年。二十代後半になり、仕事に対する菊池さんの考え方も変化していきました。
「この先のことを考えたときに、このまま勤め続けたら店長やエリアマネージャーなどの管理職が目標になっていく。現場が好きなのにどんどんそこから離れていく仕事が、なんだか違うなと悩んでいたんです。
そんなときに、前述の花屋のオーナーさんが『もしお花をやるんだったら、うちでやらない?』と話をしてくれました。
それをきっかけに、年齢も住む場所も国も関係ない、手に職という意味でお花屋さんってすごくいいかもと思い、30歳を前に花の道に進むことを決めました」自分がつくったもので誰かに喜んでもらえるということも、花の道に進む大きな理由のひとつだったそうです。
「インテリアショップにいたときも、誰かの喜びに関われることが一番うれしかったんです。ものを買ってもらうことは、その人の人生の彩りになるじゃないですか。プレゼントをあげることもそのまた誰かの喜びにつながるし、そのお手伝いみたいなことをするのがすごく楽しくて好きでした。
ものを販売するというのでもよかったと思うのですが、花屋は自分の手でつくり出したものを渡せるのが魅力でした」
スウェーデンの都市名から名付けた「マルメ」という屋号には、菊池さんのそんな純粋な思いがぎゅっとつまっています。
「大好きな北欧デザインのような、普遍的で居心地が良い、そこにあってほっとするような存在になれたらいいなという思いを込めました。
アイコンは渡り鳥であるツバメをモチーフにしているのですが、幸せをいろいろなところに届けられるようになれればという気持ちを込めて、名前とセットで決めました」
▲スウェーデンの花屋にて
■さまざまなことを教えてくれる、植物の魅力
お部屋に一輪あるだけで、気持ちも空間も明るくしてくれる花。菊池さん自身も、そんな植物の存在に元気づけられているといいます。
「早朝の暗くて寒い中でも、市場に行くと花や植物の生命力でシャキッとするというか。それはやっぱり植物のパワーが溢れているからなのかなと思います。
写真家の星野道夫さんの本で知ったのですが、桜は春がくるまでが寒ければ寒いほどすごくきれいに咲くらしいんです。だから人生と一緒だなというか。辛くて大変なことがあっても、その先に待っているものが輝いているんじゃないかとか、そういうことも教えてもらえる気がします」
菊池さんがお花で特に惹かれるのは、色と質感。そして、自然の神秘を感じる形だそうです。
「葉っぱの形とか花びらの色とか、生きているものなのに、機械でつくりだしたものではないのに、この姿として存在する不思議さみたいなところに惹かれます。
作業中に結構、『すごいねえ、かわいいねえ』みたいなことをつぶやいたりしています」
■自分の感性に正直に
「お花を選ぶときは色を大切にしています。鮮やかで華やかなものより、やわらかさやシックさを加えたりして、どんなインテリアや人にも似合いそうなバランスをすごく考えています。
最近は『マルメらしさ』というのをとても大事にしていて、世間でどんなに受けそうなものでも、それをやったらマルメの花じゃないと思うことはしないようにしています。
以前勤めていた花屋さんにいたとき、『菊池さんには好みの偏りがある』と言われたことがあります。会社の中にいるときは特徴があることがNGだったけど、自分一人になったときは逆に強みになるんだなと思いました。
迷ったときは、自分の中の軸みたいなものを信用するようにしています。
あとは、やっぱりお客さまの想いをどこまで汲み取れるかというのはすごく意識しています。いろいろ調べて、なるべくその雰囲気に近づけようと思っています」
■贈るときは、「その人の裏側から見えてくるもの」を大切に
「花屋をやっててよかったなと思うことのひとつは、自分でお花を束ねて誰かにすぐ贈れる環境にあること」と話す菊池さん。
普段から周りの方によくお花を贈るという菊池さんに、どんな風にお花を選んでいるのか、また選べばいいのか、コツをうかがいました。
「シチュエーションにもよりますが、結婚式や誕生日などなにか特別なときは、その方の雰囲気や好きなものをイメージして贈ることが多いです。その人だったらどういうのがいいかなとか、いつも何色の服を着て、どんな映画を観て、どういう趣味をしていたかなとか」
「あとは香りって記憶と深く連動しているので、季節がめぐってその花を嗅いだときに花束をもらった記憶に繋がるといいなと思って、お祝いや結婚記念日などに香りのものを入れたりもします。
香りで元気づけられるときもあるので、ちょっと元気がない方にも贈ったりしますね」▲爽やかで甘い香りのする、フリージアとスイートピーをあしらったアレンジ
「忙しい方、出産直後の方などお花に時間をかけられない方には、花束ではなくスワッグやリースなど、飾ってそのままドライフラワーにして楽しめるものにします」
「そのひとの裏側から見えてくるものからヒントをもらうことも結構あるので、贈る相手のバックグラウンドを教えてもらうことは、私自身とても大事にしています」
■おばあちゃんになっても、お花の仕事を続けたい
マルメとして今後やってみたいことを尋ねると、こんな答えが返ってきました。
「誰かの気持ちをお花で形にするという仕事をこれからもずっと続けられたら、というのが大きな目標でしょうか。そして、こうやって日常としてお花をつくって届けるということのほかに、これから先もずっと残るものとして、なにかができたらいいなという思いもあります。
展覧会などで北欧デザインの花器にお花を飾ったり、北欧関連の書籍にお花で関わったりなど、屋号の由来でもある北欧関連で花の仕事ができたらうれしいですね」
伝わってきたのは、植物をまるでわが子のようにかわいがる愛にあふれた向き合い方と、お客さまが喜んでくれるのが幸せ、という純粋でまっすぐな気持ち。
自分の「好き」に正直に歩んできたからこそ、今の「マルメらしさ」があるのだなと感じました。
写真提供:すべてMalmö
〈Malmö〉
日々の暮らしがより楽しく、特別な日がより輝くような花たちを提案するオーダーメイドの花屋。「花を通じてたくさんの幸せの種が運ばれますように」。そんな想いとともに、こだわりのお花をお届けしています。
Malmö:http://malmo-flower.com/index.html